GrubMarket(グラブマーケット)とは?食品流…

2026.08.07

コラム

GrubMarket(グラブマーケット)とは?食品流通DXの全体像と、ベジクル・ラクシーレが目指す未来

GrubMarket(グラブマーケット)とは?食品流通DXの全体像と、ベジクル・ラクシーレが目指す未来

米国の食品流通業界で存在感を高めている「GrubMarket(グラブマーケット)」をご存じでしょうか。

GrubMarketは、単なるネットスーパーでも、飲食店向けの注文アプリでもありません。青果や食肉などを扱う食品卸・流通企業のネットワークを広げながら、受発注、在庫、会計、決済、品質管理、トレーサビリティ、AIまでをつなぐテクノロジーを提供する企業です。

注目すべきなのは、ソフトウェアを販売するだけでなく、食品流通の現場そのものに深く入り込んでいる点です。

では、米国のGrubMarketが、なぜ日本の飲食店や食品卸に関係するのでしょうか。

この記事では、GrubMarketの事業モデルと主なサービスを整理しながら、業務用青果流通を手がけるベジクルと、飲食店・食品卸・物流パートナーをつなぐ「ラクシーレ」が目指す、日本型の食品流通プラットフォームについて考えます。

GrubMarket(グラブマーケット)は何をしている会社なのか

GrubMarketは2014年に米国で創業しました。生産者や食品事業者と買い手をデジタルでつなぐ事業から始まり、その後、青果・食肉・水産などの卸売会社や、食品流通向けソフトウェア企業をグループに迎えながら事業を拡大してきました。

その構造は、大きく二つに分けられます。

  1. 食品を実際に仕入れ、保管し、販売・配送する流通事業
  2. 食品卸の業務を効率化し、データでつなぐソフトウェア事業

一般的なSaaS企業は、完成したシステムを外部の事業者へ提供します。一方、GrubMarketは自ら食品流通の現場に関わり、そこで生じる課題をもとに製品群を広げてきました。

食品流通では、商品マスター、相場、規格、不定貫、ロット、賞味期限、欠品、代替、配送、請求、入金といった業務が複雑に絡み合います。GrubMarketは、これらを個別のツールで終わらせず、一つの業務基盤としてつなごうとしています。

GrubMarketを理解するための主要サービス

WholesaleWare:食品卸の基幹業務を支えるERP

WholesaleWareは、食品サプライチェーン向けのクラウドERPです。

販売、仕入れ、在庫、会計、倉庫、配送、ロット追跡などを統合し、食品卸特有の業務に対応します。特に、生鮮食品では欠かせない重量単位の管理、不定貫商品の扱い、ロットや賞味期限の追跡、倉庫内作業などを同じ基盤で管理できる点が重要です。

食品卸のDXでは、注文画面だけをデジタル化しても、裏側の在庫や会計に手入力が残れば生産性は大きく上がりません。受注から出荷、請求までをつなぐ基幹システムが必要になります。

AI Orders/GrubAssist:受注処理と経営判断をAIで支援

食品卸には、電話、留守番電話、メール、PDF、表計算ファイルなど、さまざまな形式で注文が届きます。AI Ordersは、こうした非定型の注文情報を読み取り、受注データへ変換する仕組みです。

GrubAssistは、食品流通のデータを分析し、在庫、営業、レポート作成、異常の検知などを支援するAI製品群です。

ここで重要なのは、AIが単独で動くのではなく、日々の取引データや在庫データと接続されることです。現場で蓄積された正しいデータがあるからこそ、AIを実務に使える可能性が高まります。

Orders IO:卸売会社が自社ブランドで提供できる注文基盤

Orders IOは、食品卸が自社ブランドのオンライン注文サイトやモバイルアプリを提供するための仕組みです。

顧客である飲食店や小売店は、商品検索、注文、再注文、連絡などをオンラインで行えます。卸売会社にとっては、既存の顧客関係やブランドを維持しながら、注文体験をデジタル化できる点に特徴があります。

GrubPay:受発注の先にある決済までつなぐ

GrubPayは、食品流通向けのデジタル決済サービスです。WholesaleWare、Orders IO、Farmigoなどと連携し、注文後の支払いまでを一体化します。

食品卸では、売上が立っても入金確認や消込、督促に時間がかかり、運転資金にも影響します。受発注と決済が同じデータでつながれば、事務負担だけでなく、債権管理やキャッシュフローの改善にもつながります。

Farmigo:生産者と地域の買い手をつなぐ

Farmigoは、CSA(地域支援型農業)やフードハブの運営、オンライン販売、顧客管理を支援するサービスです。

大規模な卸売だけでなく、生産者が地域の消費者や事業者と継続的な関係をつくる領域までカバーしていることから、GrubMarketの構想が「卸の効率化」だけにとどまらないことが分かります。

Procurant:調達・品質・トレーサビリティをつなぐ

GrubMarketが加えたProcurantの製品群は、生鮮食品の調達、取引先連携、受入検品、食品安全、トレーサビリティをカバーします。

  • Procurant One:生鮮食品の調達、発注、契約、取引情報を管理
  • Procurant Open Link:小売・外食・生産者・卸をつなぐ取引ネットワーク
  • Procurant Inspect:サイズ、傷、色、温度などの受入品質を記録
  • Procurant Trace:ロットや移動履歴を追跡
  • Procurant SureCheck:温度確認や食品安全チェックを記録・管理

生鮮流通では「注文どおり届いたか」だけでなく、「どのロットが、どの温度帯で、どの品質だったか」が重要です。商流、物流、品質情報までをデータでつなぐことが、食品流通プラットフォームの条件になります。

GrubMarketが注目される3つの理由

1.食品卸の現場とテクノロジーを同時に持っている

食品卸は、長年の取引関係、商品知識、目利き、調達力、物流、与信、緊急対応によって成り立っています。画面上にマーケットプレイスを作っただけでは、これらを代替できません。

GrubMarketは、既存の流通企業やソフトウェア企業が持つ顧客、仕入先、人材、業務知識を取り込みながら、デジタル基盤を広げています。「現場か、テクノロジーか」ではなく、その両方を押さえていることが最大の特徴です。

2.受発注だけでなく、利益が生まれる業務全体を見ている

食品卸の非効率は、電話やFAXだけが原因ではありません。

注文を入力し、在庫を確認し、欠品時に代替品を提案する。倉庫で仕分けし、配送し、請求して、入金を確認する。品質に問題があれば履歴を確認し、取引先と調整する。この一連の業務がつながらなければ、部分的なデジタル化では利益改善につながりにくいのが実情です。

GrubMarketの製品群は、注文、基幹業務、AI、決済、品質、トレーサビリティまでを広くカバーしています。単なる「便利な注文アプリ」ではなく、食品流通の経営基盤を目指している点が注目されます。

3.蓄積した取引データを次の競争力に変えようとしている

食品流通では、どの顧客が、どの商品を、どの価格で、どれだけ購入したかというデータに加え、欠品、代替、品質、配送、入金まで含めた情報が日々生まれます。

これらが分断されたままでは、担当者の経験に頼るしかありません。一方、共通基盤に蓄積できれば、需要予測、在庫最適化、価格設計、営業提案、与信管理などに活用できます。

取引量を増やすだけでなく、流通データを使って現場の判断精度を上げる。この循環こそ、GrubMarketの事業モデルから学ぶべきポイントです。

GrubMarketは日本に進出するのか

現時点で、GrubMarketが日本進出を正式に発表した事実は確認できません。

ただし、同社は米国外にも事業ネットワークを広げ、食品流通とソフトウェアの両面で展開地域を拡大しています。将来、日本を含むアジア市場を検討する可能性はあります。

一方、日本の食品流通には独自の参入障壁があります。

  • 店舗ごとの小口・多頻度配送
  • 深夜から早朝にかけての受注、仕分け、配送
  • 日々変わる相場、産地、等級、規格
  • 欠品時の細かな代替提案
  • 高い品質要求と鮮度管理
  • 地域ごとに築かれた卸と飲食店の信頼関係
  • 掛け取引や個別条件を含む与信・請求管理

海外のシステムを日本語化するだけでは、この現場には適応できません。商流と物流を理解し、顧客対応まで含めて運用できることが必要です。

ベジクルとGrubMarketの共通点・違い

ベジクルは、東京都を中心に飲食店へ業務用青果を届けてきた食品流通企業です。

飲食店から注文を受け、市場や産地から商品を調達し、店舗ごとに仕分け、必要な時間に届ける。価格や入荷が変われば、代替品や規格を提案する。こうした日々のオペレーションと顧客接点が、ベジクルの重要な資産です。

GrubMarketとの共通点は、食品流通の現場を起点に、テクノロジーによって業界全体の生産性を高めようとしていることです。

一方、成長の方法は異なります。GrubMarketは、食品卸やソフトウェア企業をグループ化し、事業地域と機能を広げてきました。ベジクルは、自ら培った青果調達、物流、顧客対応を基盤に、日本の商習慣に合う仕組みを構築しようとしています。

目指すべきは、GrubMarketの単純なコピーではありません。日本の飲食店と地域卸が無理なく使え、現場の利益が実際に増える「日本型の食品流通OS」です。

ラクシーレが目指すのは、卸を置き換えることではない

その構想を形にする事業が「ラクシーレ」です。

ラクシーレは、飲食店と、各地域・各カテゴリに強い食品卸や物流パートナーをつなぐBpaaS型のプラットフォームです。システムを提供して終わるのではなく、営業、商品提案、受注、与信、物流、顧客対応といった実務をパートナーと分担し、成果が出るところまで支えることを目指しています。

飲食店にとっては、青果に加え、食肉、水産、酒、加工品などの仕入れ先を探し、条件を比較し、取引を始める負担を減らせます。

食品卸にとっては、自社だけでは接点を持ちにくかった飲食店へ販路を広げ、営業・受注・顧客管理を効率化できます。ラクシーレがすべての商品や物流を抱えるのではなく、商品知識や地域物流を持つパートナーの強みを活かす点が重要です。

ベジクルが青果流通の現場と顧客接点を持ち、ラクシーレが他カテゴリ・他地域の卸と物流をつなぐ。この組み合わせによって、単独の卸売会社では実現しにくい商品網とサービス水準をつくろうとしています。

GrubMarketとベジクル/ラクシーレの比較

観点

GrubMarket

ベジクル/ラクシーレ

主な市場

米国を中心に展開

日本の飲食店・食品流通市場

成長の方法

食品卸・ソフトウェア企業のグループ化

ベジクルの現場基盤と卸・物流パートナー連携

現場機能

卸、倉庫、物流をグループ内に保有

青果物流とパートナー機能を統合

ソフトウェア

ERP、受発注、AI、決済、品質・追跡など

受発注・営業・商品・物流データを統合

パートナーとの関係

グループ化と外部へのSaaS提供

地域卸の独立性と専門性を活かした協業

目指す価値

食品サプライチェーン全体のデジタル化

日本型の生鮮流通マーケットプレイス兼OS

 

共通するのは、ソフトウェアだけでは食品流通を変えられないという点です。

注文情報を、実際の商品、在庫、仕分け、配送、請求へ確実につなげる。さらに品質と取引データを次の提案や経営判断へ活かす。テクノロジーと現場運営の両方がそろって、初めて食品流通DXは利益につながります。

日本の食品流通で、これから必要になる5つの機能

食品卸の世界では、人手不足、後継者不足、物流費の上昇、属人的な受注・営業などの課題が同時に進んでいます。

これから強くなるのは、単に商品を安く仕入れる企業ではなく、次の機能を一体で提供できる企業だと考えています。

  1. 飲食店の需要と課題を正確に把握する顧客接点
  2. 複数カテゴリの商品を集める調達・パートナーネットワーク
  3. 小口・多頻度配送に対応する現場オペレーション
  4. 受注、価格、在庫、品質、物流、与信をつなぐデータ基盤
  5. 地域卸の販路拡大、生産性向上、事業承継を支える仕組み

GrubMarketは、この方向性を先行して大規模に進めている事例です。しかし、日本の答えがそのままGrubMarketになるとは限りません。

日本には、日本の現場に根ざした流通プラットフォームが必要です。

まとめ:GrubMarketから学び、日本型の食品流通プラットフォームをつくる

GrubMarketは、食品卸の現場と、ERP、受発注、AI、決済、品質管理、トレーサビリティなどを組み合わせ、食品流通全体をデータでつなごうとしている企業です。

ベジクルとラクシーレが注目しているのは、その規模ではなく構造です。

食品流通の現場を持つ企業がテクノロジーを実装し、注文のデジタル化だけでなく、物流、品質、営業、決済、経営管理までを変えていく。その考え方には、日本の食品流通が抱える課題を解くヒントがあります。

ベジクルは青果流通の現場を起点に、ラクシーレを通じて食品卸・物流パートナーと連携し、飲食店の仕入れをより良くする仕組みをつくっていきます。

GrubMarketを追いかけるのではなく、日本の商習慣と現場に合った食品流通のマーケットプレイス兼OSをつくる。

それが、ベジクルとラクシーレが目指す未来です。

参考情報

※本記事は2026年8月時点の公開情報に基づきます。GrubMarketの日本進出は正式に発表されていません。